加速器

分散型荷電粒子加速器概要(開発コード:DISAC)...特許出願済

開発コンセプト

分散型加速器は、従来加速器と全く異なるコンセプトに基づいて開発されたものです。我々は荷電粒子加速器をプロセスとして捉えました。
図1に示すように、イオン源から出力された速度の遅い(エネルギーの低い)イオンビームを、速度の速い(エネルギーの高い)イオンビームに変化させるプロセスが加速器であると定義付けたのです。

図1 荷電粒子加速器のプロセス定義

そこで、加速器というプロセスに、最新PA(Process Automation)技術を適用し、プロセスの最適化という視点から加速器の機能を見直す、という試みに挑戦しました。その結果誕生したのが『分散型加速器』です。

特徴

分散型加速器の一番大きな特長は、加速効率の高さです。従来に比べて10倍以上改善されており、従来型高エネルギー加速器(相対論領域までの加速が可能な加速器)ではエネルギー収支の合わなかった応用分野の開拓が期待できます。

表1 分散型加速器と従来型加速器との比較
加速器の種類 加速電場
発生方式
ビーム軌道 加速エネルギー
の例
加速効率
の例






サイクロトロン 高周波 螺旋 100MeV 5%
シンクロ
サイクロトロン
高周波 螺旋 500MeV 3%
シンクロトロン 高周波 50GeV 2%
線形加速器 高周波 直線 400MeV 5%
分散型加速器 デジタル制御 直線、螺旋 430MeV 60%以上

《加速効率について》
加速効率5%の線形加速器で、ビーム平均電流1mAで陽子を400MeVまでを加速した場合、加速器の消費電力は1mA×400MV÷0.05=8MWになります。
同様の加速を分散型加速器で行った場合、消費電力は1mA×400MV÷0.6=0.67MWで、1/10以下の値となります。

加速方式

従来型加速器の加速方式を図2に示します。
加速空洞内に大電力の高周波を導き、加速ギャップを被加速荷電粒子が通過する時に、常に加速になる電場を与えることで大きな加速エネルギーを生み出す。

図2 従来型加速器の加速方式

分散型加速器の加速方式を図3に示します。
大電力高周波は使わず、被荷電粒子がギャップを通過するタイミングに合わせて、チューブ電位を制御モジュールで切り替えてやることで、常に加速になる電場を発生させます。

図3 分散型加速器の加速方式

分散型加速器では、加速電極管(チューブ)の電位を直接コントロールすることで、大電力高周波電源(真空管)を使用することなく、荷電粒子を相対論速度まで加速できます。電磁石は超電導磁石を使用し、大きな消費電力とそれに伴う水冷設備を必要とする部品を最小限に抑えるとは、コスト面、信頼性面、保守面で大きな改善につながります。また、このことが分散型加速器の高い加速効率を実現します。

eM-SCADAの機能

分散型加速器ではプロセス制御情報の管理を効率的に行う手段としてTAG(タグ)を用います。具体的には、図4に示すように、イオン源から放出される一つ一つのイオンビームパルスの全てにTAGを貼り付けて、加速器が加速する全イオンを対象にしたプロセス情報管理を行います。従って、TAGは平均20μ秒に1回の頻度で発生するので、統括制御ステーションには1秒間に50万TAGを処理できる能力が求められます。
eM-SCADAは、分散加速器のために開発されたSCADAプラットホームであり、リアルタイム性能を強化し、大量のTAGデータを余裕を持って処理する能力を備えています。

図4.分散型加速器でのTAG

TAGに掲載される内容を以下に紹介します。

《TAGの掲載情報》
  1. SV(Setting Value:制御設定値)
    • イオン源からの引き出し時間、各加速電極管を通過する際の印加電圧ON/OFFタイミング、ビーム引き出し電極のON/OFFタイミング、ビーム調整ユニット、電圧出力値、その他
  2. MV(Manipulated Value:操作量)
    • SVに対して、実際に制御モジュールが実行した操作量。実行されたイオン引き出し時間、各タイミング時刻、出力電圧値、その他。
  3. PV(Process Value:プロセス量)
    • 各加速電極管のギャップに到達した時刻、ギャップを通過するのに要した時間
      (イオンビームパルスの速度)、ギャップを通過した際の電荷量(イオンビームパルスの強度)、加速動作が行われている瞬間の加速電圧値(一次側/二次側)、真空度、その他

eM-SCADAは、TAG情報を基にSupervisory Controlを行い、ロバスト性の高い加速制御を実現します。また、全イオンビームパルスに関するプロセス量を常にリアルタイムで把握できているため、故障発生等による制御の破たんを瞬時に検出して、悪影響を最小限にとどめる停止シーケンスを実行します。
また、ロバスト性の高さは、加速器というプロセスにおいては余分な放射線の発生抑止に直結します。分散型加速器では、被加速荷電粒子線以外の放射線発生をほぼゼロに抑えることが可能となり、安全確保と建屋建設コスト確保を同時に実現します。

eM-Historianの機能

eM-Historianは、運用開始以降の全てのTAG情報を保存(ロギング)して、その情報を統計処理することで常に機器の状態変化を監視する機能を有しています。状態変化量が一定の偏差を超えた時に、eM-Historianは施設管理者に対して保守要求を出力します。分散型加速器では、ロギングされたTAG情報に基づいたCBMが保守の基本となります。従って、定期検査は日常点検も含めて不要となります。CBMの導入が保守コストを低減します。

図5 保守の考え方

今回、eM-Historianを分散型加速器に適用するに際して、TAGに画像情報を掲載できる機能拡張開発を行いました。ビームプロファイルモニタからの監視データをTAGに直接取り込めるようにするためです。本機能拡張により、各イオンビームパルスの制御監視情報に対応したビームプロファイルデータが得られるようになり、制御性の向上など更なる品質改善を実現します。

供給範囲

分散型加速器の主要パーツと、その供給範囲を表2に示します。
で示したパーツにつきましては、顧客先で手配した方が効率的な場合もあり、最終製品の形態に合わせて最も効率的な供給区分の実現を目指します。

表2 分散型加速器の供給範囲
主要パーツ名称 供給範囲
統括制御
ステーション
H/W
S/W
分散制御
モジュール
H/W
S/W
ネットワーク機器
各種電極管 入射器用
主加速器用
偏向磁石
イオン源
真空機器

弊社からの供給が必須のもの。
弊社から供給できますが、顧客先にても手配可能なもの。(弊社は技術供与のみとなります)

補足

従来の高エネルギー加速器は研究用設備という性格が強く、特にエネルギー分野、医療分野等、高度なRAS(信頼性/稼働性/保守性)が求められる産業分野にそのまま適用した場合、ユーザーにコスト面、保守面で大きな負担を与えてしまいます。産業分野から派生したPA技術に裏打ちされた分散型加速器は、産業応用に適したRAS性能を具有しており、今後パートナーの皆様方とともに、新たな応用分野を多数開拓できるものと確信します。これが、分散型加速器の製品コンセプトです。